どうでもよくない日記

とりとめない日記です。

絵本記録7

「ドオン!」(山下洋輔長新太

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山下洋輔さんというと有名なジャズピアニストだけど、何冊か絵本を出している。元永定正さんとの「もけら もけら」はひたすら言葉の響きとリズムを楽しむ絵本だった。この絵本のテーマもやはり音。鬼の子ドンちゃんと人間の子こうちゃんのケンカが、だんだんまわりの人や動物まで巻き込んで大騒ぎになるのだが、なぜかみんな太鼓を持っていて、それぞれバラバラのリズムを奏でている。てんでごちゃごちゃでめちゃくちゃな音が、ある瞬間突然ドオン!と合う。ここでやっと気づいた。これは即興演奏なんだ。最近読んだ認知症介護に関する本に、即興音楽について書かれた部分があったので、少し引用したい。

介助者は、こちらのしてほしいことを単に伝えるだけでなく、こちらのことばや動きに対して、相手がどんなタイミングでどんな表情や動きを返してくるかに注意しながら、次にやることを瞬時に決めていく。もしかすると、そのあいだに、いままでやったことのない新しい方法を思いついて、それをやってみることになるかもしれない。

認知症の介護は創造的なプロセスだとよく言われる。介助には準備もあるし、予期しているやりとりもある。けれど実際にやってみると、やり方はそのつど微細に違っている。予期したのと違うことが起こった先に、そのときの「創意」が開けている。

これが音楽の即興に似ている。

即興もまた、ただのでたらめではない。たとえ初対面でも、お互いそれまでに何らかの対人経験を持っている。ワークショップを重ねれば、お互いの出方もわかってくる。楽器も用意されている。場合によっては譜面さえ。

それでも実際に音を出してみると、まるで違うことになる。そこから先は相手に注意しながら、次に出す音を(出さない音を)瞬時に決めていく。

(「介護するからだ」細馬宏通 p.175)

ケンカ中は自分のリズムを叩いているだけだったのに、だんだん相手のリズムを聴いて、相手の表情・動きを見て、音が変わっていく。ここだ!というところでみんなが揃う。「ドオン!」ケンカはおさまり、みんな笑って帰っていく。たまたま出会ったドンちゃんとこうちゃん、そのまわりの人たち。突然生まれた偶然のグルーヴ。読んでいるだけで、なぜか自分も演奏に参加しているような気になってワクワクする。

 

 

「へっこきあねさ」(長谷川摂子荒井良二

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子ども大爆笑。これは小学生くらいまでウケるのではないだろうか。有名なお話ではあるが、改めて読むとひたすらバカバカしい。誰も悪者がいなくて基本平和なのもいい。最初屁を恥ずかしがっていたあねさがだんだん自らの屁のパワーを誇りはじめ、立派なスキルとして見事に使いこなすようになるのもいい。屁を出すのはまだしも、吸い込むのはどうやってるのか…。このてのひらむかしばなしシリーズは、長谷川摂子さんの文章の語り口が読んでいて気持ちいい。昔の喋りことばも子どもには新鮮で面白いみたい。また荒井良二さんの絵と描き文字も軽やかで、カラッと明るく笑わせてくれる。